幅広い発達段階のお子さんを一つの集団で療育する
アナログゲーム療育の利点の一つは、発達段階の異なるお子さんを一つの集団で療育できる点にあります。
そのことを「スティッキー」というゲームを用いてご説明します。
ルールを説明します。
まず、青・赤・黄の太さが異なるスティックをリングで束ね、タワー状に立てます。
プレイヤーはサイコロを振り、出た目と同じ色のスティックを順番に抜き取っていきます。やがてタワーが倒れてしまったら、倒した人の負けです。
スティックにはそれぞれ得点(青=3点、赤=2点、黄=1点)が設定されており、残ったプレイヤーのうち、抜いたスティックの合計得点が最も高い人が優勝です。
もしスティックを抜いたらタワーが崩れてしまうと思ったら、自分がそれまで抜いた中から同じ色のスティックを場に捨てることで、その回はパスできます。
発達段階にあわせて、提示するルールや言葉がけの内容を変える
「スティッキー」の優れた点は、3歳程度のお子さんから7,8歳程度のお子さんまでが、同じゲームをプレイしながら、それぞれのレベルにあった成長の機会を作れることです。
以下、レベル別に説明していきします。
最初のステップは「集団に参加する」ことです。健常児では3歳程度に相当します。この段階のお子さんには、集団参加のハードルを下げるためにできるだけシンプルなルールでプレイしてもらいます。そこでサイコロによる色指定を免除し、好きな色のスティックをどれでも抜いて良いことにします。
その子が上手にスティックを抜けたときは指導員がややオーバー気味に拍手やハイタッチをして賞賛します。自身の行動が他者に褒められるという経験を通じて、「集団に参加すると楽しい」というお子さんの認識を形作っていきます。
次のステップは、「ルールを守る」ことです。本来のルールにしたがい、サイコロを振って出た色のスティックを抜いてもらいます。
しばしば、お子さんがサイコロの色を無視して自分の好きな色のスティックを取ろうとすることがあります。その際すぐに制止せず、まずはスティックを抜かせ、サイコロと見比べさせます。
「今サイコロの色は何色?」
「取ったスティックは何色?」
「二つは同じ?それとも違う?」
と具体的に問いかけ、何色のスティックを抜けば良かったのか確認できたら、引き直させます。こうすることでルールの理解を促すことができます。
第三のステップは「順番を守る」ことです。最初の二つのステップでは、自分の順番を理解することは難しいため指導員が「◯◯ちゃんの番だよ」などと声掛けする必要があります。
ですが、このステップに達したお子さんの順番では、指導員は名前は呼ばず「次はだれの番かな?」と全体に向かって問いかけます。お子さんが自分で順番で気づくことを促すためです。
最初のうち、自分で気づくのは難しいですが、ほかの子がプレイしているとき「次がキミの番だよ」となどと声掛けすることで、周囲を意識して、自分の番が来たら自発的にサイコロを振れるようになります。
順番を守ることは、「相手や場の状況を読み取り、そこに合わせて自発的に動ける力を養う」という、アナログゲーム療育最大の目標への、最初の段階になります。
第四のステップは「合理的に考える」ことです。精神年齢的には7~8歳にあたります。この段階のお子さんに対しては、そろそろタワーが倒れそうなとき、「自分がそれまで抜いたスティックの中から同じ色のものを場に捨てれば、その回はパスできる」という上級ルールを提示します。
安全策でスティックを捨てるか、危険を犯してでも次のスティックを取りに行くか。ジレンマに悩みながら、状況に応じた合理的な判断力を身につけてもらいます。
同じゲーム 異なる指導目標
上記の内容をまとめると、スティッキーでは、
- 集団に参加する
- ルールを守る
- 順番を守る
- 合理的に考える
という段階の異なる4つの目標を同時に指導することができます。そのため、知的能力が2~3歳くらいから7~8歳くらいまでのお子さんを一つの集団で療育することが可能です。
多様な発達段階のお子さんが通ってくるが、グループ分けができるほどの全体人数は多くない環境で療育をするときは、大変頼りになるゲームです。
親子で楽しめるゲーム
「2~3歳くらいから7~8歳」というのは、あくまで療育としての成果を考える場合の適正年齢です。
ゲームを楽しむという本来の目的ならば、スティッキーは子どもから大人までが一緒になって楽しめるゲームです。
そんなこともあってか、皇太子ご夫妻と愛子様が楽しそうにスティッキーを遊ばれている様子が報道されたことがあります。これも一応「宮内庁御用達」と言えるのでしょうか・・・。
このように小さなお子さんがいる家庭で家族みんなで遊ぶには、スティッキーは一番にオススメしたいゲームです。
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