自閉症のあるお子さんの視覚優位性
自閉症のあるお子さんの多くが備える特性として、言葉よりも、色や形といった視覚の認知力が強いことがあります。
この視覚優位の特性を生かして、家庭では「歯磨きしましょう」と声をかける代わりに、「歯磨きしている場面の絵や写真」を見せるなどの工夫をすると伝わりやすいのは、この障害と関わる人の間では、よく知られるところです。
他方、この視覚認知の強さは、特定の対象に対する固執の要因ともなっています。たとえば、積み木、お絵かき、パズル、Youtubeの動画など視覚的刺激を与えてくれる対象に長時間没頭し、声をかけても頑として応じないことがしばしばあります。
幼稚園・保育園等でみんなで輪になって遊ぶ中、一人だけ参加を拒否してパズルやブロック遊びに熱中したり、家で何時間もYoutubeばかりを見ているお子さんの様子をみて、先々のことを心配する親御さんは少なくありません。
このような一人遊びの傾向について、本人の興味が尊重されるべきなのはもちろんなのですが、療育的観点からすると、自閉症児のお子さんもいずれは他者との関係を結びながら、学び、働いていくわけですから、彼らなりのやり方で集団に参加し、他者との関係作りを学んでほしいと思っています。
そこで今回は、自閉症のあるお子さんの特徴である視覚優位性を生かしつつ、集団参加を促すゲームを紹介します。
視覚優位性を生かして集団参加を促す「虹色のへび」
ドイツAMIGO社の「虹色のへび」は、美しい色のカードを並べてヘビを完成させるゲーム。そのカラフルさは自閉症のあるお子さんの心を掴むのに最適です。
ルールはシンプルです。
ヘビの胴体が描かれたカードを、順番に場に並べていきます。色の合うカード同士はつなぐことができます。繋がる色がない場合はそのまま場に置きます。
胴体のほか、頭としっぽのカードが各色一組ずつ入っています。頭としっぽが揃って、一匹のへびが完成すると、完成させた人がそのヘビのカードをまとめてもらえます。なお、虹色はどの色にもつなげることができます。
めくる札がなくなった時点で、一番多く札を撮った人が勝ちです。
まずは一人プレイから
療育として自閉症のお子さんに集団参加を促す場合、いきなり集団に入れるのではなく、まずは指導員の見守りのもと一人で遊んでルールを理解してもらいます。
1枚ずつ山札をめくって、ヘビを作っていってもらいます。
ヘビが完成した時、指導員は「ヘビ完成!やったね!」とハイタッチしてそのカードをお子さんに持たせてあげます。こうすることで、ヘビを完成させるのが好ましい行為であること、そのカードが自分にとっての「報酬」であることを理解してもらいます。
このように、指導員の声掛けのもと何度か遊んでいると、ヘビが揃ったときお子さんに笑顔がでたり、「やったぁ」と声が聞かれるようになります。「ヘビの完成させる」というゲームの目的をお子さんが理解したことになります。そうなれば、集団に参加させる準備ができたことになります。
集団に参加させてみる
一人遊びの段階では、「虹色のへび」はお子さんにとって単なる絵合わせパズルでしかありません。初めて集団に参加したお子さんも、最初はいつも通り一人淡々とプレイしていく場合が多いです。しかし、プレイを進めていくうち、いつもの一人遊びとちがう「他の子どもがヘビを揃えて取っていく」という状況が生まれます。
これまで一人で「虹色へび」を遊んでいたお子さんからすると、いつも自分が全部揃えてもらえていたはずのヘビを、今日に限ってほかの子が奪っていくことになります。これは中々悔しい経験で、中には泣く子や怒る子もいますが、あまり頓着せずそのままゲームを進めてしまいます。なぜならゲームが進んでいくうち、自分もヘビをもらうことができるチャンスが必ず巡ってくるからです。
涙する親御さんも・・・
自閉症のあるお子さんが集団参加のきっかけをつかむゲームとして「虹色のへび」は最適ですが、前回ご紹介した「スティッキー」も色や形の特徴がハッキリしているので同じ目的に使えます。一つのゲームだと飽きやすいので、いくつかのゲームを組み合わせるのが有効です。
これらのゲームを通じて、それまで一人遊びしかしなかったお子さんが、いつの間にか友達の輪の中で笑いながらゲームを楽しんでいる場面を、私はこれまで何度も見てきました。
またそのお子さんの姿をみて、涙する親御さんもいました。
このような光景を見るたびにシンプルなゲームが持つ力を改めて実感します。
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