ゲームは楽しいばかりでなく、不安なもの
私がアナログゲームを使って発達障害の子どもたちの療育をしていると言うと、「ゲームの世界なら失敗しても怖くないから、お子さんも安心して取り組めますね」という感想をいただくことがあります。
私も最初はそう思っていたのですが、実際には違いました。
発達障害のあるお子さんたちを対象にアナログゲームを行う場合、まず最初に感じるのは彼らの強い不安感、緊張感です。この記事で取り上げたように、自分の不安感を隠して強さを誇示するため、わざと暴力的になる子もいます。
子どもたちのこうした不安・緊張の背景には、過去の失敗体験が大きく影響していると私は考えています。発達障害のあるお子さんは、注意や衝動の調整困難、あるいは認知の偏りといった障害特性により、同年代のお子さんとの遊びの中で失敗を繰り返し、笑われたり、集団から排除された結果「みんなで輪になって遊ぶ」ということに対して強い不安感を持っていることが多いのです。
集団遊びに不安感を感じるお子さんにとって、ゲームは楽しそうに見える反面、不安で恐ろしいものに見えています。ゲームは、自分の行動が成功したり失敗したりする様子が、他者の目にハッキリ映るからです。
ゲームに参加したがらない子どもたち
不安が強すぎて、そもそもゲームに参加しようとしないお子さんも一定割合います。理由を聞くと、「難しそう」「こういうの苦手だから」と答える子が多く、もっと率直に「負けるのが嫌だから」と言う子もいます。
こうした子たちは、いわば「集団参加への勇気が挫かれている状態」にあります。しかし、もし勇気を振り絞ってゲームに参加し「最初は不安だったけど、やってみたら楽しかった」という思いを持てたなら、その経験は別の場面、たとえば学校や地域で集団参加するときの勇気を取り戻すことに繋がるはずです。
見た目のインパクトNO.1 「キャプテン・リノ」
では、不安が強くゲームの輪に入ろうとしないお子さんに、どうしたら参加してもらえるのでしょうか。お子さん自身の過去の経験に根ざした困難ですから、小手先のテクニックではどうにもなりません。
こういうときは、お子さんの「怖い、やりたくない」という気持ちよりも、「面白そう、やってみたい」という気持ちが上回るようにするしかありません。一種の力勝負です。
ここでアナログゲームの本領が発揮されます。アナログゲームは本来は誰かに「面白い」と思ってもらえるため作られたものなのですから。
今回ご紹介するキャプテン・リノは、初対面の子どもたちが集まるゲームイベントなどで、ゲームに不安を感じているお子さんに興味をもってもらうためによく用いるゲームです。
プレイヤーごとに配られたカードを使って、高いタワーを組み立てて行きます。タワーを崩してしまった人が負けです。前の人が置いたカードにキャプテン・リノの描かれたマークがあると、キャプテン・リノ人形をそのカードの上におかなければならないため、難易度がグッと上がります。
上手く積み上げるとタワーの高さは1m以上になりすごい迫力があります。「いつ崩れるか・・・」と子どもたちが感じるスリルも最高潮になります。
参加しない子は、まずは見学してもらう
ゲームが不安で参加を渋る子がいた場合、無理に参加させようとはせず、まずはほかの子がプレイしている様子を見学してもらいます。
積み上がるタワーのビジュアル的なインパクトや、そこに一喜一憂する子どもたちの歓声は、見学中のお子さんにとって、ゲームに興味を感じるきっかけとなります。
そして一度ゲームを見学することで、どうすれば成功でどうすると失敗なのかプレイイングに対する見通しがつけることができます。このことはお子さんの安心感に繋がります。
このように見学を通じてお子さんの興味と安心感を高めておければ、二回目のプレイの際、改めて促すことでゲームに参加してくれる可能性が高くなります。
最初不安だった子ほど意欲的に取組む
興味深いのは、最初不安感が強くゲームへの参加を渋っていた子ほど、一旦ゲームに参加すると誰よりもプレイを楽しみ、ゲーム会が終わる頃には「またやりたい!今度はいつ来てくれるの?」と言ってくれることです。
こういう時、その子は単にゲームが楽しかっただけでなく、不安を乗り越え集団に参加できたことへの喜びを感じているのです。この喜びが、人と関わる勇気を回復させることに繋がります。
このようにアナログゲームには、集団参加に対する不安を感じている子を、その不安を上回る興味で惹きつけて参加を促し、結果として人と関わる勇気を回復させる力があります。
この「勇気を回復させる」ことは、コミュニケーションスキルの獲得と並んで、アナログゲーム療育の重要な目的の一つだと考えています。
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