療育の指針を示す個別支援計画
「個別支援計画」は、放課後等デイサービスが提供する発達支援の内容と目標を記載するもので、お子さんの利用開始時に作成し、以後6ヶ月ごとの更新が義務付けられています。
また、「個別支援計画」は、指導員にとっては何を目標として日々その子と関わっていくかを示す指針であり、また6ヶ月後の更新時にそれまでの発達支援の成果を測る基準ともなります。
言うまでもなく重要な書類ですが、放デイ経営者の方からは「現場から上がってくる個別支援計画書のレベルが低い・・・」とのお悩みをいただきます。
どうすれば質の高い個別支援計画を作れるのでしょうか。実例を交えて説明します。
目標は行動レベルで記載する
個別支援計画には決まったフォーマットはありませんが、たいていの場合、長期目標を1~2個、短期目標を3~4個設定します。
長期目標の記載でしばしばみられるのが「教室に慣れ、楽しく過ごす」といった曖昧な目標設定です。「慣れる」「楽しむ」といった主観的な表現では目標がどの程度達成できたのか客観的に評価できません。
このような主観的で曖昧な表現は、行動ベースの表現に書き換えることで、客観的かつ具体的な評価が可能になります。たとえばこのように書き換えます。
- 「教室に慣れ、楽しく過ごす」⇒「教室のプログラムに初めから終わりまで参加する」
「慣れる」「楽しく」といった主観的な内容を、「プログラムに初めから終わりまで参加する」という具体的な行動に置き換えました。
このような行動ベースの目標であれば、その達成度は客観的に評価できます。たとえば、ゲームには意欲的に参加するが学習は嫌がって参加しないなら、上記の目標は一部しか達成されていないということになります。
そこから、どうすれば学習に参加してくれるのか、あるいは学習以外のプログラムを用意すべきなのか、新たな計画に向けた議論につなげていきやすいです。
達成までの見通しがつく目標を設定しよう
短期目標の設定では、長期目標と対照的に、あまりに具体的すぎる目標を設定してしまい、その目標が達成できないために後で四苦八苦するケースが多いです。
たとえば、親御さんから「ウチの子、靴紐が結べないので結べるようにしてほしいんです」という具体的な要望が出たとき、実現可能性を考えずにそのまま「靴紐を結べるようになる」という指導目標を設定してしまうようなケースです。
仮にこうした目標を設定した場合、施設側は次回計画書を更新する6ヶ月後までに「靴紐を結べるようになる指導」をその子に提供し、実際に結べるようにしなければなりません。それは本当に実現可能な目標でしょうか。
たとえば、その子に手先の不器用さがあり、ボールを上手で投げられなかったり、お箸が使えずスプーンで食事していたとしたらどうでしょう。その子に「靴紐を結ぶ」ことを教えるのはまだまだ先の話です。
また、「靴紐を結べるようになる」という目標がその子だけのものだとしたら、たった一人のためだけに独自のプログラムを設計し実行するだけのマンパワーを割くことが難しいかもしれません。
専門的なアセスメント能力と指導ノウハウがあるなら話は別ですが、そうでないなら、達成見通しがつかない指導目標を設定することは避けなければなりません。
具体的すぎる行動目標は、能力ベースの目標に置き換える
親御さんから具体的すぎる要望が出たときは、そのまま受け止めず、その行動を成り立たせている能力ベースで目標を解釈しなおします。具体的には以下のとおりです。
- 「靴紐を結べるようになる」⇒「工作課題への取り組みを通じて手指の巧緻性を高める」
「靴紐を結べるようになる」ことを直接の目標とせず、そのために必要となる「手指の巧緻性」という能力を身につけることを目標としました。また、そのための手立てとして、工作課題に取り組むことを挙げました。
「靴紐を結ぶ」という具体的な行為から、「工作課題への取り組み」というより広い目標に置き換えたことで、たとえば折り紙を折ったり、ペーパークラフト作りではさみを使ったり、調理実習で包丁を使うといった行為も指導内容に含めることができます。こうした活動を通じて手指の巧緻性が向上し、結果として靴紐が結べるようになることを目指します(もちろん紐結び自体を指導に含めても良いです)。
このように、あまりに具体的すぎる行動目標は、能力ベースの目標に置き換えて幅広い課題で対応できるようにしておくことで、お子さんの発達段階にあわせた柔軟な指導が展開できる上、施設が持っている教材やノウハウを適用しやすくなります。
その際も、達成目標自体は行動ベースで記載することが大切です。たとえば、短期目標に付随する手立ての欄には「曲線をはさみできれいに切ることができる」「補助がなくとも包丁で野菜を切ることができる」など、達成度が客観的に把握できる行動ベースの目標を設定することが望ましいです。