おかげさまで・・・
独立から3ヶ月、「フリーランスの療育アドバイザー」などという仕事が果たして成立するのか半信半疑でしたが(汗)、おかげさまで複数の事業所様からワークショップや研修のご依頼を頂いております。
特に、設立間もない放課後等デイサービスの経営者やスタッフの方から、多くご依頼をいただきます。そうした方々の多くは、「療育の質を高めたい」「スタッフの専門性を高めたい」という思いを強く持っておられます。
その背景には、放課後等デイサービスが各地で急速な勢いで設立され、質の高いサービスが提供できなければ他の事業所との競争の中で淘汰されてしまう、という危機感があるようです。
「発達障害の特性とその対処」だけでは足りない
放課後等デイサービスの経営者やスタッフの中には、畑違いの分野から、発達障害児療育の世界に飛び込んだ方が多くいらっしゃいます。そうした方々は、当然ながら書籍や研修会などでこの障害について熱心に学ばれています。それでも、療育とは何を目指すものなのか、どうすれば質の高い療育ができるのか、今ひとつハッキリしないことが多いようです。
実際にお話を伺うと、こうした方々の多くは「発達障害の特性とその対処」だけを学んだケースが多いと感じます。それゆえ、日々の実践が必ずしもお子さんの成長に繋がっていないようなのです。
他方、療育アドバイザーである私は「お子さんの発達段階に合わせた課題設定」ができることが療育者の最低限の条件だと考えています。
双方の見方の差を下の表にまとめました。
「障害特性とその対処」だけを学んできた人が重視する点 | 療育アドバイザー(松本)が重視する点 | |
療育の専門性 |
こだわりや多動性、読み書き困難など、各障害の特性に対する知識があること | 子どもがどんな段階を経て発達するか知っていること |
スタッフが備えるべき専門性 | 子どもの障害特性にあわせた支援ができること | 子どもの発達段階にあわせた課題設定ができること |
教室が備えるべき条件 |
障害児のストレスにならない環境設定 (視覚支援・構造化など) |
各発達段階に対応できる豊富な教材・遊具 |
「障害特性」か「発達段階」か
新たに療育に関わった方は障害特性を重視していることが多いようです。それに対し、療育アドバイザーである私は、発達段階をより重視しています。
上記の表の二つ目、「スタッフが備えるべき専門性」でいえば、療育の世界に新たに入ってきた方の多くは、ASD・ADHD・LDなどの障害特性に対する特別な対応をたくさん知っていることを「専門性の高さ」だと考えている場合が多いです。
例えば、
- ASD(自閉症スペクトラム障害)の子に言葉ではなく絵カードで指示する
- ADHDのある子には、一つの作業を細かく区切って、適度に休憩させながら取り組ませる
- 読みのLDのある子には読むべき場所以外を隠せるフィルターを使わせる
といった工夫を多く知っていることが、「専門家」の条件として評価される傾向にあるようです。
それに対し、私が療育における専門性として重視するのは「発達段階にあわせた課題設定ができること」です。
たとえば、キャッチボールをやらせて上手く投げられないお子さんがいたら、上投げではなく下投げからやらせてみる。それでもダメならキャッチボールはやめてボーリングにし、ボールを転がさせます。
逆に上投げのキャッチボールが最初から上手にできてしまうなら、ワンランク上の課題として、狙った場所に投げられるようストラックアウトを導入する、といった具合です。
このように、お子さんの発達段階に対応できる”課題の引き出し”を数多く持ちあわせていることが、療育の専門家として最も重要な条件であると、私は考えています。
「発達段階に合わせた課題設定」は「障害特性への配慮」に優先する
もちろん、ASD・ADHD・LDなどの各障害特性への配慮は重要です。しかし、発達段階に合わせた課題設定ができるほうが、より優先度が高いと考えます。
なぜなら、お子さんの発達段階にあわない課題を設定してしまうと、たとえ障害特性への配慮があったとしても、お子さんは課題に取り組まず、そればかりか問題行動を起こしてしまうからです。
上記のキャッチボールの例で言えば、肩関節をうまく使いこなせずスムーズな上投げができない子に、上からボールを投げる絵カードを提示した所で、投げられるようにはなりません。
無理にでも投げさせようとすれば、お子さんは怒って課題に取組むことを拒否するか、パニックを起こしてしまいます。
それよりも、この子はまだ上投げはできないなと見たら、まずは下投げから、それもダメならボーリングにするといった課題の引き出しを多く持っていることの方が、効果的かつストレスの少ない療育をする上では重要なのです。
逆に言えば、発達段階にあわせた課題設定さえできれば、大抵の場合お子さんは意欲的に課題に取り組んでくれるので、たとえ障害特性への理解や配慮が不十分だったとしても、その逆であるよりは、問題がおきにくいのです。
発達段階が見えると、その子の成長も見えてくる
発達段階に合わせた課題設定ができると、お子さんの成長についても把握できるようになります。
たとえば、ボーリングでボールを転がすだけだった子が、何度か指導して下投げのキャッチボールができるようになった。一年後には上投げのキャッチボールが出来るようになっていた。といった風に、お子さんの成長を達成できた課題レベルの向上を通して測れるようになります。
その結果、スタッフは自身の仕事の成果を実感できるともに、その成果を保護者に報告して信頼と評価を得られます。
これは障害特性とその対処法を学んだだけでは、できないことです。たとえば絵カードを用いたことでお子さんへの指示が通りやすくなったとしても、それだけではお子さんを成長させたことにはなりません。
障害特性とその対処だけを学んだ人が、今ひとつ「療育をした」という実感を持てないのは、この辺りに理由がありそうです。
アナログゲーム療育の優位性は「発達段階にあわせた豊富な課題を用意できること」
これまで述べてきたように、発達段階に合わせた課題設定ができることは療育の最優先事項です。
しかし、特に放課後等デイサービスは、対象年齢が小学生から高校生までと幅広いため、各発達段階に合わせた課題を一朝一夕に用意することは困難です。
実はこの点において、本サイトがご紹介しているアナログゲーム療育が一つの解決策になりえます。
下は2歳くらいから上は大人まで、様々な年齢に合わせたゲームが、1000種類以上市場に出回っており、その多くがコミュニケーション療育の課題に成り得るからです。
アナログゲームを導入することで、自分たちでゼロから課題を作らなくても、お子さんの発達段階に合わせたきめ細かい療育が可能になるのです。
多様な発達段階のお子さんに合わせた療育を行うのが難しいと感じている療育関係の方々には、ぜひ導入を検討していただきたいとおもいます。
アナログゲームでお子さんの発達段階にあわせた療育を行なった例は、前回のブログ「アナログゲームを通じた発達支援の実例」にまとめていますので、ぜひ一度ご覧ください。