障害のある子たちの集団活動で、安全を確保するには
放課後等デイサービスでは、多動性や衝動性、あるいは様々な感覚の過敏を持った発達障害のある子たちを日に10人近くお預かりします。
こうした子どもたちに事業所で安全に過ごしてもらうためには、一連の活動をスムーズに行えるよう、教室の環境を整えたり、スタッフがサポートしたりする必要があります。
そこで、私が療育アドバイザーとして複数の放課後等デイサービスに関わった経験をもとに、スムーズかつ安全な療育を実現する工夫を以下にまとめてみました。
①来所→教室に入るまでの混乱を避ける
お子さんが来所してから教室に入るまでには、意外とたくさんのステップがあります。
最低でも
- 靴を脱いで下駄履に入れる
- ランドセルをロッカーにしまい、上着を脱いで所定の場所にかける
- 手を洗ってうがいをする
この3つはどこの事業所でもやっているはずです。
しかし、お子さんの中には、手も洗わずランドセルを背負ったまま教室にすっ飛んで行こうとする子もいれば、手先が不器用で上着をハンガーにかけるのが困難な子もいるなど、中々スムーズには進みません。そのため、利用児が増えてくると、来所時間は下駄箱まわりが子どもたちで渋滞してしまうことが多くなります。
このとき、スタッフが場当たり的に対応していると、必ず手が行き届かない子がでてしまい、順番争いで喧嘩がおきたり、手順を守らず教室に入ってしまう子が続出するなど、毎回大混乱に陥ってしまいます。
こうした混乱を防ぐために必要な対策として、来所→教室に入るまでの流れを、文章(できれば写真も)に表したものを下駄箱周辺に掲示し、お子さんに周知することが大切です。
また、スタッフはだれがどの作業をサポートするか、飛び出そうとする子をだれが抑えるか、事前のミーティングで役割分担を明確にしておく必要があります。
②危険な行為は、まずその行為を辞めさせた後、注意する
たとえば、教室で長い棒を振り回していた子がいたとします。このときによくみかけるのは、スタッフが「◯◯くん、その棒危ないから先生に渡して。ねえ、渡してって言ってるでしょ」などと言いながら、お子さんの後ろをついて回っている光景です。
これは危険な状態です。なぜなら、後方からのスタッフの言葉に気を取られ、棒の先端の行方に注意を払えていない可能性が高いからです。
こうしたときは、まず「棒を取るよ」を一声かけた上で、サッと棒を取り上げてしまいます(一声かけるのは、お子さんを驚かせないためです)。その後で、「教室で棒を振り回すのは危ないからやめてね。この棒をしまっておきます」と説明します。
転落の恐れがあるような高所に登っている子も同様です。まず「降ろすよ」といいながらその子を抱いて地面に降ろします。そのあとで「落ちたら危ないから、登っちゃだめだよ」と注意します。
登っている子に後ろから「◯◯くん、そこにいたら危ないでしょう。降りなさい」などと注意するのは先の例と同じ理由で危険です。
③トランポリンかバランスボールを用意する
多動で離席があり、教室内であばれたり外に出ようとする子への対応として、トランポリンやバランスボールを用意するのは有効です。
トランポリンは大掛かりに思えるかもしれませんが、一人用の小さなものがamazonで4000円代からあります。場所もそれほど取りません。
バランスボールなら1500円ほどですみます。サイズがいろいろ有りますが、小さめの55cmが良いでしょう。
トランポリンの上で飛んだり、バランスボールに座って揺れることで、体を動かしたいといういうお子さんの欲求をみたしつつ、体はその場にとどまることができます。そのため、先生の話を聞いたり活動に参加できます。離席した子が居場所がなくして、フラフラと外に出て行ったりしてしまうよりは、ずっと良いのです。
ただし、それぞれ弱点があります。トランポリンは飛び降りた時衝撃が床に伝わるため、騒音トラブルの原因になる可能性があります。事業所がマンションの中階にある場合などは避けるべきでしょう。
バランスボールは自由に使わせると子ども同士の投げ合いが始まり、他の子にぶつかってしまうことがあるので、必要なとき以外はしまっておいたほうがよいでしょう。
④子どもを興奮させすぎない
若い男性のスタッフにありがちな失敗として、自由時間にプロレスごっこや肩車、鬼ごっこなど体を大きく使った遊びをした結果、お子さんが自身の安全に配慮できないほど興奮してしまい、ほかの子や物に衝突して怪我をしてしまうことがあります。
基本的に屋内では、自由時間中、走ったり、激しい身体接触を伴う遊びは避けるべきでしょう。その代わり、カリキュラムの中に運動プログラムや屋外遊びを取り入れたりして、思い切り体を動かす機会を作るべきです。
⑤日々の療育カリキュラムを組む
最大の安全対策は、お子さんが飽きずに楽しんで取り組めるカリキュラムを用意することです。
発達障害のある子どもたち10人が、一つの部屋の中で何時間も「ただなんとなく」過ごす、というのは基本的にムリな話です。いかなる安全対策をとっても、危険やトラブルは避けられません。
発達段階に合わせた課題を用意し、子どもたちはその課題を楽しみながら一生懸命取り組む。スタッフはその取り組みをサポートし、課題を達成できた喜びを分かち合う。そういう態勢ができあがることは、お子さんの成長を促す上で大変重要なことですが、活動自体の安全性を確保する上でも必須です。